昭和21年の冬、小松ストアーは街に新しい風を吹かそうとある試みを始めました。それが「クリスマス・セール」でした。
当時は、今ほどクリスマスは一般的なものではありませんでした。年末の繁盛期、多くの店は「歳末大売り出し」「年末セール」の看板を掲げましたが、「クリスマス・セール」と打ち出すのは小松ストアーだけ。クリスマスという言葉の新しさはもちろん、この時期だけの特別なサービスが大変な評判を集めました。なかでも注目を集めたのが、クリスマス専用の包装紙。物資が不足していた時期のこと、新聞の紙でさえ入手するのが困難なか、中身はささやかでも、特別な日に特別なものを……という心の声に、包装紙を提供することで人々の気持ちに応えました。
プレゼントに贅沢はできなかった時代のことです。色鮮やかなラッピングが施された包みを、小脇に抱えながら歩く。今から見ると、たったそれだけと思われるかもしれませんが、当時としては画期的なことでした。紙が貴重だった時代でもあり、小松ストアーのクリスマス包装紙は大人気でした。創業者・小坂武雄のアイデアで始まったこの試みは、以降、小松ストアーの冬の風物詩となりました。
また昭和24年からは店頭に大きなツリーを飾るようになります。当時の写真には、自然木を使った建物よりも高い雄大なツリーを正面に据えて、鮮やかなデコレーションを施した店頭の様子を見ることができます。このツリーを見上げながら店内に入り、プレゼントを選ぶのが冬の楽しみだったと振り返るお客様は少なくありません。
その後、建物を新築するたびに様々な趣向を凝らしたクリスマスデコレーションでお客様をお迎えしてきましたが、店頭でのクリスマスツリーの飾り付けは、昭和61年を最後に取りやめることになりました。それは周りの環境の変化とともに、クリスマスツリーへの世間の捉え方が変化したことにより、小松ストアーの考え方とお客様の捉え方の意味合いが少し異なってきたと感じたからでした。
小さな百貨店ならではの『小味なサービス』として始まった「クリスマス・セール」。それは12月の風物詩として行うからこそ、意味がありました。単なる歳末セールを演出する道具ではなく、季節を感じ、一年の終わりを楽しく過ごす雰囲気をお客様と分かち合いたかったのです。
クリスマスツリーが店頭に飾られなくとも、そうした私たちの思いは今も大切に受け継がれて、違った形でお客様にお届けしています。そして、それは新しく生まれ変わるギンザ・コマツでも、きっと感じて頂けることと信じています。